技術開発の歴史

創業者/開発者インタビューあの頃の地震対策は"おまじない"に等しかった

─ これまでの経緯を教えて下さい
大学を卒業し清水建設に入社しました。
配属された技術研究所では、建築構造、特に建物の強度に関する技術開発に取り組んでいました。
子供の頃から「新しいアイデア」「発明」に強い興味を持っていたんです。
「充填鋼管コンクリート」や「水の力でビルの揺れを抑える技術」などは私が考案したものです。
─ 水が揺れを抑える?
「横浜マリンタワー」は強風の揺れで1年に延べ20日間はエレベーターが停止していると聞き、揺れを止める方法を考案しました。
タワー最上部に水槽を設置するだけ。固有周期をぴったり一致させて、「建物」と「水」が互いの揺れを打ち消しあうというアイデアなんですが、誰も信じてくれませんでした。
自分で水槽を最上部へ手運びで設置し、台風が来てようやく分かってもらえました(笑)
この仕組みはいま、風に弱い構造の高層ビルの多くで採用されています。
■横浜マリンタワー最上階にて(1988年)
─ 思いもよらない発想だったんですね
高層ビルの柱も考案しました。それまでの鉄骨鉄筋コンクリートの柱は外側をコンクリートで固めていましたが、地震などで曲がると破片がボロボロ崩れてしまいます。逆転の発想で、コンクリートの外側を鋼管で覆った方がより強いだろうと考えました。この充填鋼管コンクリートは、いまや日本中のほとんどの高層ビルの柱で採用されています。
■清水建設副社長(故・大崎順彦氏)に充填鋼管コンクリートを説明する佐藤(1985年)
─ アイデアはどのようにして発想するのですか?
自然界のモノを観察し、なぜそうなるのか、なぜこう動くのかなど、分からないことを調べることが好きです。
たとえばテレビなどの液晶は、当初、あるイカから採取した物質を使って研究されていました。イカがカメレオンのように変色して自分を守る姿を見て、この原理をテレビなどの表示デバイスに応用できないかと考えた人がいたのです。発明の多くは、自然界に存在する原理を応用したもので、逆に、人間がつくったものなど大したことはありません。
■当社発足当時・清水建設社長(故・野村哲也氏)と佐藤(2001年)
─ 創業のきっかけを教えて下さい
'95年に発生した阪神淡路大震災が大きく影響しています。私の出身地でもある兵庫県は甚大な被害を受けました。地震発生から3日後に、清水建設の建築構造メンバーとして現地に入り、そこで目の当たりにした惨状を今でもはっきりと覚えています。 犠牲者の多くは、住宅の倒壊や、家具の下敷きになったことが原因でした。そんな現実に直面しアイデアをいくつか思いつきましたが、戸建住宅の地震対策や、家具・家電の地震対策などは、とうてい大手ゼネコンが扱える分野ではありませんでした。

そんなある日に見かけた引っ越し屋さんのテレビCMで『震災対策として、粘着マットで家具を床に固定するサービスを始めました』と言うんです。想像してください。電車に揺られているとき、足が床に固定されていたら、むしろ倒れてしまいます。あの頃の日本の常識的な地震対策は「おまじない」に等しかったと思います。
家具は上部を固定して、下部は適度に滑るほうが倒れにくいのです。早く正しい知識、正しい製品を発信しないと!と焦る気持ちが芽生えました。
─ そこから創業につながるわけですね
そうです。'01年に清水建設内の社内ベンチャー制度に手を上げてアイディールブレーンを発足し、住宅向け地震対策建材「制震テープ®」を開発しました。
これは高層ビル用の制震装置に使う材料を住宅向けにアレンジしたもので、20年経った現在でも、業界で最高レベルの性能を持つ弊社の主力製品の一つです。
─ 当時の清水建設の方々は大臣や大学教授と他分野でご活躍されています
実は、あのまま清水建設に勤めていれば、社内の要職、もしくは大学教授になる道も用意されていました。でもいまも私は技術開発をエンジョイしています。なぜなら、私の人生が価値を持つのは、肩書ではなく、多くの人の役に立った時ですから。
だからこうして、発想を自由に活かし、生きているのが楽しくて仕方ありません。
佐藤 孝典(さとう たかのり)
1955年 徳島県生まれ。
1981年 大阪大学大学院建築工学科を卒業し、清水建設へ入社。
2001年 清水建設社内の事業家公募制度によりアイディールブレーン発足。
2004年 アイディールブレーン株式会社設立
住宅をまるごとダンパーにする「制震テープ®」、家具転倒防止器具「ガムロック」、敷くだけの免震装置「ミューソレーター」など、独自のアイデアで新製品を開発する
  • 2001年8月

    清水建設株式会社の事業化公募制度に基づきアイディールブレーン発足
  • 9月

    「制震テープ®」発表

  • 2002年6月

    日本建築学会「未来を拓く研究と技術開発に関する懸賞論文」1等受賞

  • 2002~
    2004年

    「リユース部材による組立解体自在の制震構造の開発 」を文部科学省の独創的革新技術開発研究(平成14年度)採択

  • 2005年1月

    「アルミニウム薄板を挟んだL型金物によるボルト組立・制震構造の開発」にて 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の 平成16年度研究開発型ベンチャー技術開発助成事業 採択

  • 5月

    鋼管杭無溶接継手工法「ボルフィックス」開発

  • 7月

    家具転倒防止「ガムロック」開発

  • 11月

    墓石転倒防止「不倒(ふとう)」開発

  • 2006年11月

    免震装置「ミューソレーター」発売 フリーアクセスフロアを兼ねた世界一薄い床免震装置

  • 「ガムロック」をリニューアル 家具・家電転倒防止「ガムロック」として用途別に8種ラインナップ

  • 2007年7月

    「ボルフィックス」の建築技術性能証明を(財)日本建築総合試験所にて取得

  • 11月

    「制震テープ®」が(財)日本建築防災協会の住宅等防災技術評価を取得

  • 2008年6月

    免震装置「ミューソレーター」が国土交通大臣の指定建築材料認定を取得

  • 2011年2月

    世界遺産「興福寺 国宝仏像17体」に「ミューソレーター」を施工

  • 2014年12月

    「ガラス制震壁の実用化開発」にて 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の平成25年度イノベーション実用化ベンチャー支援事業 採択

  • 2015年4月

    木造住宅用制震装置「ミューダム® R」を発売

  • 木造住宅用制震装置「ミューダム® RH」 「ミューダム® RL」の国土交通大臣認定を取得

  • 7月

    木造住宅用制震装置「ミューダム® RH」 「ミューダム® RL」を開発・商品化

  • 2016年5月

    木造住宅用制震装置「ミューダム® ZH」の国土交通大臣認定を取得

  • 木造住宅用制震装置「ミューダム® ZH」を商品化

  • 9月

    木造住宅用制震装置「ミューダム®」が2016年度グッドデザイン賞を受賞

  • 10月

    木造住宅用制震装置「ミューダム® RB」 「ミューダム® ZL」 「ミューダム® ZB」の国土交通大臣認定を取得

  • 免震装置「ミューソレーター」が2016年度グッドデザイン金賞(経済産業大臣賞)を受賞

  • 2018年4月

    木造住宅用制震装置「ミューダム®」が第30回 中小企業優秀新技術「優秀賞」を受賞

  • 8月

    製品名「制震テープ®」が経済産業省特許庁より商標登録認可

  • ボルト接合による鋼管杭機械式継手工法「ボルフィット工法」がハウスプラス確認検査株式会社による構造評価を取得

  • 2021年2月

    木造住宅用制震装置「ディーエスダンパー」の国土交通大臣認定を取得

  • 4月

    木造住宅用制震装置「ディーエスダンパー」を発売

製品紹介

  • 強靭鋼棒が地震エネルギーを吸収するディーエスダンパー

    強靭鋼棒が建物の揺れを吸収する制震ダンパー。両側の曲面サポートが強靭鋼棒への応力集中を回避させ、理想的にエネルギーを分散吸収。建物へのダメージが低減され、本来の耐震性能を維持します。
  • 免震装置ミューソレーター

    ミューソレーターはシンプルな免震装置です。
    装置単体や特定のエリアなど、必要な部分だけを免震にすることができるため設置場所、コスト、工期といったさまざまな制約条件をクリアします。
  • 地震の揺れを80%低減ミューダム®

    金属流動とは、異なる金属同士が摩擦を受けながら、摩耗することなく一方が軟化し柔らかく動き始める現象のことです。
    複数の大学及び研究機関等との基礎研究の結果、繰り返し摩擦を受けても一定の摩擦抵抗力を保ち続ける「アルミと鋼材」の組み合わせを発見しました。
  • 家をまるごとダンパーにする制震テープ®

    兵庫県南部地震を何度も与えた実物大振動実験に於いて、制震テープ®を使用すれば、住宅の揺れ(層間変位)を最大80%低減できることを確認しています。
  • 家具・家電の転倒&滑り防止ガムロック

    一般にきわめてもろいと考えられている壁紙や塗装壁での使用を前提に開発されました。公的機関の振動テストにおいてその性能が確認されています。
  • 工期を短縮する継手BOLFit!

    BOLFit!工法は、回転貫入工法やプレボーリング工法の鋼管杭に対応した、現場溶接不要の機械式継手です。従来の溶接継手にない様々なメリットを提供します。
  • 水の力で揺れを抑える高層ビル用制振ダンパーSSD

    スーパースロッシングダンパーは、水の動きを建物の振動に共振させ、風による建物の揺れを低減させる振動制御システムです。建物の「風揺れ」を水槽内部の「水揺れ」が打ち消し、揺れを1/2~1/3に抑えます。


PAGE TOP